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増値税一本化改革について(三)

2018-02-10        

     続いて、増値税と一般消費税の税率を見てみましょう。

    改正後の「中華人民共和国増値税暫定執行条例」によれば、増値税の税率は、課税対象により、最高17%から最低6%の数段階に分けています。具体的に見ますと、物品の販売と輸入並びに役務(加工、修理及び組立を指す。)及び有形動産の賃貸サービスの提供(賃貸サービスの提供は元の営業税の課税項目であり、5%の税率を適用していた。)は、最高17%の税率を適用します。次は、交通運輸・郵政・基礎電信・建築・不動産賃貸にかかるサービスと不動産の販売、土地使用権の譲渡(交通運輸・郵政・基礎電信・建築・不動産賃貸にかかるサービスと不動産の販売、土地使用権の譲渡は、皆元営業税の課税項目であり、3%及び5%の税率を適用していた。)及び法に定めた物品(食料などの農産品、食用植物油、塩、水道水、スチーム、冷気、熱湯、プロパンガス、LPG、天然ガス、DME、メタンガス、住民用石炭製品、図書、新聞、雑誌、音楽映像製品、電子出版物、飼料、化学肥料、農業機械、農業用ビニール及び国務院が規定したその他の物品を含む。これら物品の販売に適用する税率は「増値税暫定執行条例」改正前13%となっていたが、改正後11%に下がった。)の販売又は輸入であり、11%の税率を適用します。上記以外のサービス及び無体財産の販売(これも元営業税の課税項目であり、娯楽業を除いて5%の税率を適用していた。)は、6%の税率を適用します。

    これに対して、一般消費税の税率は当面8%(消費税率6.3%+地方消費税税率1.7%)となっており、日本国内で消費されるすべての財貨やサービスに対して均等に適用しています。2019年10月1日から10%に引き上げられることになっていますが(酒類・外食を除く飲食料品の譲渡や週2回以上発行される新聞の定期購読契約に基づく譲渡に対して同時に実施される予定の軽減税率は8%にとどまる。)、それでも衣食住等住民の基本生活にかかわる分野において増値税を大幅に下回っています。

    今度は納税額の計算を見てみましょう。

    国内で物品の販売等又は資産の譲渡等を行う場合の納税額について、一般消費税と増値税はいずれも各課税期間の課税売上等に係る税額から当該課税期間の課税仕入れ等に係る税額(以下「仕入れ控除税額」という。)を控除した後の残額を当該課税期間の要納付税額としています。仕入れ税額とは、物品の販売等又は資産の譲渡等を行うために仕入れを行った際に支払った一般消費税又は増値税に係る税金をいいますので、免税や非課税、不課税の取引(又は課税しない取引)に係る仕入れはそもそも一般消費税又は増値税がかからないため、控除できる仕入れ税額も当然ありません。

    ところが、これに反する増値税の特例もあります。つまり、農業生産者による自ら生産した農産品の販売は増値税において免税取引であるにもかかわらず、当該農産品を仕入れた事業者が法定の農産品仕入れインボイスを発行し、又は法定の農産品販売インボイスを取得しさえすれば、当該仕入れに係る支払い対価の11%を後の売上税額に対し仕入れ控除税額とすることができるのです。ただし、この特例は明らかに農産品卸売業者を奨励するための中国政府の政策的配慮であり、一般性を有するわけではありません。

    しかし、課税取引に係る仕入れは必ず仕入れ控除税額を生じるかと言いますと、そうでもないのです。仕入れ税額控除が認められるのは、あくまで一般消費税又は増値税が課税される取引に係る売上に対応する仕入れであるため、課税されない取引に係る売上に対応する仕入れは税額控除を生じません。要するに、仕入れと売上が共に課税される取引により得られた場合に限って、相応の仕入れ税額控除がはじめて発生するのです。

     ただし、一般消費税に比べると、増値税は更に納税制度の整合性問題(簡易課税制度適用者と原則課税制度適用者との間の取引によく見られる。)や特別な規制もあるため、仕入れと売上が共に課税取引で得られたとしても、仕入れ税額の控除につながらない場合もあります。例えば、接待交際費、旅客輸送サービス利用費、金銭貸借費用、飲食代、住民日常サービス利用費、娯楽サービス利用費及び非正常損失(盗難、紛失、腐敗変質、法による没収・廃棄・撤去などを指す。)に係る物品、納税者が自ら使用するために購入したバイク、自動車、プレジャーボート等の物品、並びに簡易課税制度適用取引に係る仕入れは、たとえ課税仕入れであっても、仕入税額控除が認められないのです。

     又、税務機関に仕入れ税額控除を認めてもらうためには、一般消費税も増値税も当該税金の発生を証明できる書類の提出を必要としていますが、一般消費税の場合、詳細の帳簿や請求書等さえあれば十分であるのに対して、増値税の場合、帳簿等のほかに仕入れ税額が明記された増値税専用インボイス(農産品仕入れインボイス又は農産品販売インボイス及びその他増値税完納証憑資料を含む。)を取得しなければなりません。さもないと、仕入税額控除はやはり認められないのです。

     又、仕入れ税額控除が不足するとき、一般消費税の場合は、申告により当該不足額に相当する消費税を還付してもらうことができますが、増値税の場合は、当該不足額を次の課税期間に繰り越して控除することしか認められません。

     国内で物品の販売等又は資産の譲渡等を行う場合の納税額の計算面において一般消費税と増値税は斯くにも違いますけれど、物品の輸入又は外国貨物の引取りに関して、両者は殆ど一致しています。一般消費税と増値税はいずれも関税課税価格(いわゆるCIF価格)に消費税以外の個別消費税の額及び関税の額に相当する金額を加算した合計額をその課税標準額としています。又、輸出に関して両者とも仕入れ税額の全額還付を申請することができます。

     最後は簡易課税制度を見てみましょう。

     前述の各課税期間の課税売上等に係る税額から当該課税期間の仕入れ控除税額を控除した後の残額を当該課税期間の要納付税額とする原則課税制度に対し、一般消費税と増値税の制定者は納税者の事務負担を軽減するためにみな実際の課税仕入れ等の税額の計算を必要としない簡易課税制度を設けました。しかし、両者の簡易課税制度は適用方式や税額計算方法において大きく異なっています。

     一般消費税の簡易課税制度の適用対象は、基準課税期間(普通は当該課税期間の前々年又は前々事業年度を指す。)の課税売上高が5,000万円以下の中小事業者であり、しかも、当該制度の適用を受ける旨の届出書を事前に提出した事業者に対してのみ適用するのです。これに対して、増値税の簡易課税制度の適用対象は、法定課税基準(①、物品及び加工・修理組立にかかる役務の販売に従事するもので、年間売上高が50万元に満たない場合。②、元営業税課税取引を行うもので、当該営業税課税取引に係る年間売上高が500万元に満たない場合。③、①と②に掲げたものを除く他のもので、年間売上高が80万元に満たない場合。)に満たない小規模事業者であり、しかも、自動的に適用されるのです(法定課税基準を満たしたものは、申請を提出して始めて原則課税制度を適用するようになれる。)。

     又、簡易課税制度に基づく納税額の計算について、一般消費税の場合は、売上高等に係る税額に占める割合所謂所定の見なし仕入れ率で仕入れ控除税額を割り出してから、納税額を計算することになっていますが、増値税の場合は、課税売上高等に直接法定の徴収率をかけて納税額を算出することになっています。一般消費税の見なし仕入れ率は、卸売業、小売業、製造業等、サービス業等、不動産業及びその他の事業の6つの業種に対応して90%から40%まで6種類に区分されていますが、増値税は、すべての課税取引に係る売上高等に対して同一の徴収率(3%)を適用しています。

     どちらの計算方法が納税者にとってメリットが多いのか多分業種によって大分違うかと思われます。ただ、簡易課税制度と原則課税制度の整合性から見れば、恐らく一般消費税のほうが納税者にとってより便利なものでしょう。少なくとも増値税簡易課税制度適用者が原則課税制度適用者に対して増値税専用インボイスを発行するために取引を行う度に税務局に頼まなければならないような手間が省かれたからです。

     以上は、日本の一般消費税に比較しながら改革後の中国の増値税の仕組みについて考察いたしました。結論として、一般消費税と比べて、増値税は課税対象も多いし、納税義務者の範囲も広い。又、税率も割と高くて、仕入れ税額が控除できない課税取引も多い、と言わなければならないでしょう。

     さて、振出に戻りますが、なぜ増値税一本化改革が納税者に与えた痛税感が真っ向から対立しているかという問題です。増値税の仕組みをここまで見てきた皆様方は恐らくもうその原因に気づいたかと思います。そうです。税率の変化と仕入控除税額の多寡に原因があるのです。元営業税の納付税額は、課税期間の売上高に直接所定の税率をかけて算出される単純なものでした。ところが、増値税の納付税額は、課税期間の課税売上高に係る税額から当該課税期間の仕入れ控除税額を控除した後の残額とされています。仕入れ控除税額が多ければ多いほど、納付税額も少なくなります。仕入れ控除税額が少ないひいてはない場合、しかも、適用する税率が元の営業税税率とあまり変わらないときに、実際に納付する増値税税額は元の営業税税額と殆ど変わらないのです。しかし、適用する税率が元の営業税税率より高くなったときは、実際に納付する増値税税額が元の営業税税額より多くなります。又、仮に仕入れ控除税額が多い場合、しかも、適用する税率が元の営業税税率とあまり変わらない又はそれより低くなったときに、実際に納付する増値税税額は元の営業税税額より少なくなるのです。ですから、増値税一本化改革は、決して全ての納税者にとって減税の福音とは言えないのです。業種によってこれがもたらした痛税感もまちまちとなるのでしょう。

     「近年実施した最大規模の減税措置」というのは、結局税務官僚がついた嘘に過ぎないのです。もちろん、このような嘘をつかなければならない裏にはそれなりの事情もいろいろあるのでしょう。だが、一番切羽詰まった理由は、やはり最近アメリカ等各先進国の間で繰り広げられてきた減税競争を背景に経済不況に対する国民の不満や減税要求を躱すためにあるかと考えられます。

     税収は国家機関の正常な運転を保障する資金源ですから、凡そ必要不可欠なものでしょう。しかし、どんな税収でも私有財産に対する公権力の侵害に当たりますので、何でもかんでも課税し、しかも、重税を課すと、民間の富が貧り食われ、経済が停滞してしまいかねないのです。日本では、世界各国の消費税レベルを比較する際によく各国消費税の最高税率を取り上げて状況を説明しています。例えば、スウェーデンやデンマークについて最高25%、最も高いとかと。中国についていう場合は、だれもかれも17%と挙げています。単に「中華人民共和国増値税暫定執行条例」に定めた税率だけを見る場合は、確かに17%が最高です。ところが、中国では「中華人民共和国増値税暫定執行条例」に定めた増値税とは別に、「中華人民共和国土地増値税暫定執行条例」に定めた土地増値税という税目もあります。日本では土地の売買又は貸付は(消費税の)非課税取引になりますので、もう忘れられているかもしれません。だけど、中国のこの土地増値税は日本の特別消費税(日本に実際はないですけど。)、つまり中国の特別増値税に当たります。その課税方法は、「中華人民共和国増値税暫定執行条例」に定めた原則課税の方法と全く同じです。しかも、その税率は超過累進課税制度を適用し、30%から60%までの四段階の税率を有しています。仮にその最高の60%の税率を増値税の最高税率としたら、中国はまぎれもなく世界一高い消費税を課する国となります。

    終わり                     

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