増値税一本化改革について(一) 2017-12-30
先月末、中国の国務院が「『中華人民共和国営業税暫定執行条例』の廃止と『中華人民共和国増値税暫定執行条例』の改正に関する国務院の決定」を公布しました。これは、60年以上にわたって実施されてきた営業税が正式に幕を閉じ、増値税がすべての業種で施行するようになったことを意味します。
ご承知のように、これまでに営業税は、中国国内で役務を提供し、不動産を譲渡し、又は無体資産を販売することについて徴収する税目であり、増値税は、国内で物品を販売し、加工、修理組み立ての役務を提供し、又は物品を輸入することについて徴収する税目でした。増値税一本化改革は、従来営業税を課すべき対象を増値税の課税対象に変更し、課税すべき対象に対して一律に増値税を課すようにすることであり、2011年から試験的に施行し、2016年から全面的に展開されてきました。この改革により、流通領域における中国の税収制度は、全ての消費行為に対して統一された間接税を徴収することで国際的な一般税収規則と一致するようになりました。
この改革について、国務院法制弁公室と財政部、国家税務総局の責任者はみな、「供給側の構造性改革を推進する上での重大な措置であり、また近年実施した最大規模の減税措置だ」と説明し、マスコミもそのまま受け売り報道をしていますが、業界の見方は意外と分かれています。改革後企業の税負担が軽減したとする経営者もいれば、税負担がかえって重くなったと訴える経営者もいます。
問題をどういう風に見ればよいのか、増値税に相当するといわれた日本現行の消費税に比較しながら、改革後の中国の増値税の仕組みを考察し、これがもたらした税負担の変化についてちょっと分析してみましょう。
単に「消費税」だけといいますと、実は、増値税のほかに「消費税」と同じ名称の税目も中国で現に実施されています。ただし、この税目は、流通する貨物に対して一律に増値税を課すという前提のもとで特定の消費品目について更に特別な税金を上乗せして徴収するものですので、日本現行の個別消費税に相当するかと思われます。要は、厳密に言えば、中国の増値税と同質のものは、日本の一般消費税のみです。
それでは、増値税と日本の一般消費税はどこまで似ているのでしょうか。ここで課税対象や納税者、税率、納税額の計算、簡易課税制度などの税収要素から両者の相違点をちょっと探ってみましょう。
まず、課税対象です。
増値税の課税対象は、改正後の「中華人民共和国増値税暫定執行条例」によれば、中国国内で行われる物品及び加工、修理組立にかかる役務の販売、サービス、無体財産及び不動産の販売(以下「物品の販売等」という。)並びに物品の輸入となっています。ここでいう販売とは、有償で物品の販売等を行うことをいいます。これに対して、一般消費税の課税対象は、日本の「消費税法」によれば、日本国内で事業者が事業として対価を得るために行う資産の譲渡、貸付け及び役務の提供(以下「資産の譲渡等」という。)と外国貨物の引取りとなっています。ここでいう事業とは、対価を得るために資産の譲渡等を繰り返し、継続、かつ、独立して行うことをいいます。
言い方がちょっと違いますが、増値税と一般消費税の課税対象の内容が大体同じといっても過言ではないでしょう。ただし、一般消費税の場合、事業としない個人の資産の譲渡等はその課税対象となりませんが、増値税の場合、事業とされなくても、物品の販売等さえあれば、その課税対象になりうるのですから、対象範囲がやはり違います。
また、一般消費税も増値税も、原則として有償で行われる資産の譲渡等又は物品の販売等(以下見なし販売行為を含めて「有償取引」と総称する。)をその課税対象としていますが、全ての有償取引について課税しているわけではありません。有償取引について一般消費税の場合は、これを「課税取引」、「免税取引」、「非課税取引」と「不課税取引」の4種類に分けていますが、増値税は、「課税取引」、「免税取引」と「課税しない取引」の3種類しかありません。ここでいう非課税取引とは、消費に負担を求めることになじまない取引や、政策的に課税するのが適当でない取引のことであり、不課税取引とは、一般消費税の課税対象に当たらない取引のことを言います。このような分け方は、一般消費税の課税すべき対象と課税すべからざる対象の違いをより分かりやすいものにしてくれたと思いますが、増値税はそのような区分がないのが残念です。
表面的に見る限り、増値税の「課税しない取引」の部類には一部の一般消費税の「非課税取引」と「不課税取引」もごちゃまぜにが入り混じっています。かといって、一般消費税の「非課税取引」+「不課税取引」= 増値税の「課税しない取引」ではありません。というのも、日中両国の社会制度や文化背景が随分違うため、税金の理念や政策配慮の対象、消費価値観などに大きなずれが現存しているからです。どんな取引について課税しないかはもちろんのこと、同じ「免税」といっても、対象範囲が一致するとは考えられないのです。
ところで、免税取引、非課税取引及び不課税取引について、一般消費税も増値税もそれぞれの関連法令において具体的な適用事例を取り上げていますが、比較するためにここでちょっとまとめてみます。
まず、一般消費税です。
(一)免税取引
(1)輸出(2)国際輸送(3)免税店経営
(二)非課税取引
(1)土地(土地の上に存する権利を含む。)の譲渡及び貸付並びに住宅の貸付
(2)預貯金及び貸付金、国債、地方債、社債、新株予約権付社債、投資法人債券、 国際通貨基金協定に規定する特別引出権の利子
(3)保険医療、高齢者療養、障碍者医療介護、公害被害者療養、労災医療療養、自動車損害賠償を受けるべき被害者の療養
(4)居宅介護サービス、施設介護サービス
(5)社会福祉事業、更生保護事業
(6)医師、助産師その他医療に関する施設の開設者による助産に係る資産の譲渡等
(7)埋葬料、火葬料
(8)身体障害者用物品の譲渡、貸付け
(9)学校(幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校を含む。)教育及びそれに類する教育を行う各種学校並びに専修学校の教育
(10)小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校の教科用図書の譲渡
(11)信用の保証料及び物上保証料
(12)合同運用信託、公社債投資信託(株式又は出資に対する投資として運用しないものに限ります。)又は公社債等運用投資信託の信託報酬
(13)保険料(厚生年金基金契約等における事務費用部分を除きます。) 及び保険料に類する共済掛金
(14)集団投資信託、法人課税信託又は特定公益信託などの収益の分配金
(15)相互掛金、定期積金の給付補てん金
(16)無尽契約の掛金差益
(17)抵当証券の利息
(18)割引債の償還差益(割引債には利付債も含まれる。)
(19)手形の割引料
(20)金銭債権の買取又は立替払に係る差益
(21)有価証券の譲渡及び賃貸(有価証券には、登録国債等は含まれるが、ゴルフ会員権など一定のものは含まれない。)
(22)割賦販売法に基づく割賦販売、ローン提携販売、包括信用購入あっせん又は個別信用購入あっせんの手数料で契約において明らかに区分されている部分の金額
(23)割賦販売などに準ずる方法により資産の譲渡等を行う場合の利子又は保証料相当額で契約において明らかに区分されている部分の金額
(24)動産又は不動産の貸付けを行う信託の利子又は保険料相当額で契約において明らかに区分されている部分の金額(信託は、貸付期間の終了時に未償却残額で譲渡する旨の特約が付されたものに限ります。)
(25)いわゆるファイナンス・リースのリース料のうち、利子又は保険料相当額で契約において明らかに区分されている部分の金額
(26)郵便切手類の販売及び印紙、証紙、商品券などの譲渡
(27)国、地方公共団体、法に定めた法人及びその他法令に基づき国若しくは地方公共団体の委託若しくは指定を受けた者が、法令に基づき行う次に掲げる事務に係る役務の提供で、その手数料、特許料、申立料その他の料金の徴収が法令に基づくもの(政令で定めるものを除く。)
(ア)登記、登録、特許、免許、許可、認可、承認、認定、確認及び指定
(イ)検査、検定、試験、審査、証明及び講習
(ウ)公文書の交付(再交付及び書換交付を含む。)、更新、訂正、閲覧及び謄写
(エ)裁判その他の紛争の処理
(三)不課税取引
(1) 給与・賃金
(2) 寄附金、祝金、見舞金、補助金等
(3) 試供品や見本品の提供
(4) 保険金や共済金
(5) 株式の配当金やその他の出資分配金
(6) 資産について廃棄をしたり、盗難や滅失があった場合
(7) 心身又は資産について加えられた損害の発生に伴い受ける損害賠償金(ただし、損害賠償金は対価性がある場合には、課税の対象となる。)
(8) 相続や時効により財産が移転した場合
⇒ つづき
|